大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(う)1240号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

〈前略〉

三控訴趣意第二章、第三章及び同補充書中、共同加害の目的の認定に関し、原判決に法令の解釈適用の誤り及び事実誤認がある旨の論旨について。

イ、刑法二〇八条の二の第一項にいわゆる兇器準備集合罪が公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものであるとしても、同罪は主として殺傷犯、損壊犯の予備罪的性格を有するものであることに鑑みれば、同罪にいう共同加害の目的とは、集合した二人以上のものが共同実行の形で加害行為を実現しようとする意図と解せられるが、本件の如き迎撃形態の兇器準備集合罪においては、行為者において相手方の襲撃を予想し、もし相手方の襲撃のあつた折には敢えてこれを迎え撃ち、積極的に殺傷等の加害行為に出る意思があり、かつ行為者の認識した事情を基礎とし一般の社会人の見地から客観的に判断した場合、相手方による襲撃が発生する具体的可能性ないし蓋然性が存在すると認められる限り、同罪にいう共同加害の目的があるというを妨げないものと解せられる。この点についての原判決の説示は、それ自体としては必ずしも明白ではないが、共同加害目的の存在を認定した基礎事実の説示部分を併せ通覧すると、右の当裁判所の法律解釈と同一の見地に立つているものと解せられるから、結局、原判決には所論主張の法令解釈の誤りはない。

ロ、原判決は、「被告人らに共同加害目的があつたかどうかについて考究すると」として、(一)乃至(四)の事実を認定し、その認定事実を綜合して共同加害の目的の存在を認定しているものであるところ、右認定事実たる革マル派と中核派の抗争の状況と、本件昭和四九年二月三日から四日の頃の政治状勢、前進社の建物の内部構造と設備、準備された兇器の種類と数量並びにその配置の状況、襲撃に対応するための人員の配置とその部署、装備並びに任務、意思統一の内容に加えて、第一前進社及び第二前進社の各一階出入口の鉄板で強化した扉は、これを完全に閉め切つてもトラツクにコンクリートの電信柱を乗せて突入してくれば破壊されると危惧されていたこと、扉を破られた折にそなえ鉄パイプによる迎撃の準備が各入口でなされていたことを綜合すれば、「右の社防は日常一般的な警備とはとうてい認められず」「革マル派の襲撃があれば、現に社防の任務にある者はもとよりのこと、前進社内部にあるすべての者は、一丸となつて、迎え撃つ臨戦態勢にあつた」とし、「被告人らにおいて、革マル派による襲撃を予期し、その場合には積極的にこれを迎撃し、その身体、生命に対し共同して危害を加える目的を有していたと認めるのが相当である」としている原判決の認定には、事実誤認のかどはないし、また、共同加害目的についての当裁判所の前記の法律解釈を適用しても、共同加害の目的の存在を認定しうるものであるから、原判決には、法令適用の誤りのかどもない。

ハ、従つて、この点の論旨もすべて理由がない。〈以下、省略〉

(木梨節夫 時国康夫 栗原平八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例